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  • 番台さん物語

  • 投稿者:管理人
 
草笛さん物語シリーズ

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  • 休日モード 女シリーズ 露天風呂番台さん物語 第1章

  • 投稿者:@楽
  • 投稿日:2013年 7月13日(土)12時41分10秒
 
投稿者:草笛  投稿日:2013年 4月29日(月)11時22分20秒


   プロローグ

僕の住んでいる町は1955年に6つの村が合併して誕生した。
2011年10月1日に出雲市に編入されて自治体としての56年間の歴史に幕を閉じた。
この町が「編入吸収されること」は地域の誇りを捨てることだと僕は感じて編入反対運動をやった。
おかげで僕は最後に新選組近藤勇、土方歳三みたいに追い詰められて、この町の賊軍になってしまった。
その話は政治的な固い話なので読者にそんなに受けそうもない。今回の物語とは直接には関係がない。

かつて自治体として、この町が存在していたとき、天然温泉の町営露天風呂施設があった。
建物や露天風呂は公費で作って町の所有物だった。町の社会福祉協議会に運営を委託していた。

僕は露天風呂が好きで、時々、風呂に入りに行っていた。
町営の施設だったので、町の議会議員だった僕が風呂に行くと、所長が
「先生こちらへどうぞ!」と事務室に招き入れて、ホンマモンのコーヒーを飲ませてくれたものだ。
ほんのささやかな役得だったわな。

当初は、お役所型の営業時間でやっていて、役場に合わせて夕方6時には風呂場を閉鎖していた。

「一般庶民が仕事から帰ってくるのは午後6時頃だ。
 6時閉店では露天風呂に入りたくても入れないじゃないか!夜9時まで営業をやるべし!
 品物を売るわけではないから、入湯客が増えた分だけ丸儲けなるぜよ。
 住民も喜ぶ、施設も儲かる。いいことづくめだわさ」

僕はそうアドバイスして、夜9時まで営業時間を延長させた。
そしたら売上が伸びて、延長時間分の売上が、ほぼ丸儲けになった。
「草笛先生のアドバイスで儲かりました!」と所長が喜んでいた。

ある日、入湯客向けに6か月有効の定期券みたいなものを販売したいと所長が僕に相談した。
1回の入湯料は400円だった。もしも毎日入って、そのつどゼニを払えば1か月1万2千円、6か月で7万2千円だ。

「先生、6か月パスをなんぼで売り出せばいいのでしょうか?ご意見を賜りたいです」

「そうだね、6か月間で1万円にしておいたらいいよ」

「1万円ですか!!!なんぼなんでもそれは安すぎやしませんか!」

「物の場合は原価があるが、風呂は原価が一定だから、多くの人が来れば、それが増し儲けになるんだわさ!
 入湯パス券を買った人が周りの友人と誘い合わせてくれば、連れの者は400円払う!その分が増し儲けになるはず。
 そもそも、この施設は町民の税金で作ったんだから、住民福祉の意味でも1万円で十分だと思うよ」

所長はしぶしぶ僕の意見に従った。6か月1万円の優待券は安いからバカ売れとなった。
優待パス効果で町営露天風呂に沢山のお客が押し寄せはじめた頃、時を同じくして
奇しくも、妙に男心をくすぐるタイプの魅力的な女性が風呂場の番台として採用された。
歳は40歳代。この町に県外からやってきた人妻だった。表面的におとなしい山陰の女たちと違って
明るくて社交的で愛嬌があった。なんでも大都会の大阪にもいたことがあったそうで、どこか垢抜けしていた。

優待パス効果に、さらに愛嬌のある番台さんデビューが重なって、町営露天風呂は、夕方になると
地元の者のみならず、近隣の町村の男たちまでもがやってきて盛況を極めた。

それまで比較的空いていた露天風呂が芋の子を洗うが如く、裸のオヤジ、ジジイで満杯になった。洗い場は順番待ちだった。
何を隠そう、僕も、その番台さんに会いたくて、夕方になると無意識に車を町営露天風呂施設に向かって走らせていた。
この物語は、静かな田舎の町営露天風呂を舞台にして、
掃き溜めに鶴が舞い降りてきたような魅惑的な番台の女性と僕が出会い、そして悲しい別れに至った物語である。

(この物語はフィンクションであり、実在の人物とは一切関係がありません)




  • [12]
  • 休日モード 露天風呂番台さん物語  第2章

  • 投稿者:@楽
  • 投稿日:2013年 7月13日(土)12時37分13秒
 
投稿者:草笛  投稿日:2013年 5月19日(日)17時17分17秒

   40歳台半ばながらも可愛くて愛嬌のある番台さんは、またたくまに人気者になった。
彼女のファンの客はオヤジ、爺だけでなく、独身の割と若い男にまで広がって行った。

番台さんは午後3時から午後7時までのパートタイム。時給800円、一日で3200円の収入だった。
そんなに大きな収入にならないから、亭主は彼女が目立つ場所で仕事をすることに乗り気ではなかった。
しかし、田舎の山間の静かな村に嫁入りし、子育てが一段落した彼女は、
人が行き来する賑やかな場所でパートタイムの仕事をしたかったのである。

僕が風呂から上がって、番台のそばに置かれた休憩用椅子に座って煙草を一服していると
彼女は番台席から出てきて、僕の前に座って話相手になってくれた。
露天風呂の休憩室には風呂上り客用に、100円の牛乳と150円のアイスクリームの自動販売機があった。
彼女に100円玉を3個渡して、
「一緒にアイスクリーム食おうよ」と言うとうれしそうにアイスクリームを二つ買って来てくれた。

スナックでホステスさんにウーロン茶1杯飲ませて800円払うことを思えば、牛乳の100円や
アイスクリームの150円なんてタダみたいなものなので、露天風呂に行くと、必ず彼女に
牛乳かアイスクリームを僕はおごってあげていた。そうして親しくなっていった。

この可愛くて愛嬌の良い番台さんに、農家のオヤジたちが芋や、大根や、竹の子など四季折々の農産物を
プレゼントし出した。150円のアイスクリームをおごるよりも、ゼニがかからないからだ。
彼女は愛嬌がある人で「まあ、うれいいわ。すごく美味そうね」とお礼を言って、すべて受け取っていた。
そして、その客が帰ると「草笛さん、これあなたにあげるわ」と僕にくれた。

彼女の嫁ぎ先は農家だったので、農産物をもらっても仕方なかったのだ、
相手の善意を断らずに受け取っておいて
それを家に持ち帰らずに、僕をはじめとした非農家の客にプレゼントしていた。

農家の人は彼女に芋や大根をプレゼントしてお礼を言われて幸せな気持ちになって帰って行ったし
非農家の客は、彼女か芋や大根をプレゼントされて幸せだった。それはまさに「善の循環の実践」であった。

栗、柿、ミカン、魚、シジミなどのありとあらゆるコストのゼロの品物が
彼女を喜ばすために集まってきた。田舎のゼニのないオヤジたちの精一杯のと愛と誠だったのである。
それは必ず僕へのプレゼントに化けた。

漁師がサザエをいっぱい持ってきたとき、番台さんはそれも僕にくれた。
「サザエは高価だぜよ。君の家に持って帰って亭主に食わせてやれや」
「お客からいろいろプレゼントをもらって家に帰ると、亭主が返って心配するから、サザエも草笛さんが食べてね」
と彼女はニッコリ笑った。

旅行に行った客は番台さんに旅先の名物のお菓子を買ってきてプレゼントしていた。
それも僕がプレゼントされていた。

僕が、露天風呂に行った日はいろんなみやげを持って帰宅するので、
妻は最初はおかず代が浮いたと喜んでいたが、次第に不思議がるようになってきた。
サザエをたくさん持って帰ってきた日には、さすがに、妻に言われた

「なんで、こんなに色んなものを番台さんからあなたがもらって帰ってくるの?!!」

「あまり難しく考えるなよ。これは善の循環というやつだと俺は思っているよ」

                       来週の第3章に つづく




  • [11]
  • 休日モード 露天風呂番台さん物語 第3章

  • 投稿者:@楽
  • 投稿日:2013年 7月13日(土)12時35分48秒
 
投稿者:草笛  投稿日:2013年 5月25日(土)09時47分39秒

   初夏の頃、僕は番台さんをビアガーデンに誘った。

「いつも美味しいものをプレゼントしてくれてありがとう。お礼の意味でビアガーデンに招待するよ」
「ビアガーデン、いいわね。でも田舎の狭い世間よ。草笛さんと二人で飲んでいて変な噂になったりしたら困るわ。
 大学生の娘が丁度帰郷しているから、娘も連れて行っていいかしら?」

番台さんだけでなく、彼女の20歳の娘まで一緒に付き合ってくれるとは、レバレッジ2倍の信用取引の買付みたいな儲け話だ。
母と娘の二人をはべらせて飲むのはなおさら楽しいわな。

当日、ビアガーデンに番台さんと娘が現れたとき、何も知らない人が見れば母娘ではなく姉妹に見えただろう。
番台さんは派手な水色の花柄の半袖のブラウスで若々しかった。娘は若いがゆえに逆に目立たない地味な服を着ていた。

番台さんの娘も器量が良かったが、華やかで愛嬌のある母といると、太陽の前の月のように霞んで見えた。

「草笛さん、娘の就職のためにもいろいろ力添えをお願いしますね」
「綺麗な娘さんだね。俺にできることなら何でも協力するよ」
「あなたみたいにやさしい人に私初めて出会ったわ・・・」

親しくなるにつれ、番台さんはいろいろ僕に相談してくるようになった。
自分より一回り年下の独身男の客から、ストーカーみたいに付きまとわれて困っているから何とかしてくれ、と頼まれた。
僕はその若い男を呼び出し

「おい、独身の若い者が、年上の人妻につきまとうんじゃないぜよ。
 お前は若いんだから独身の年下の女を狙えや。人妻には手を出すな。
 まっとうな男なら人の道をわきまえろよな」

とやさしく諭した。それ以降、ストーカー行為は止んだ。
僕の紳士的なやさしい言い方が効果があったのである。静かに脅かす方が、大声で怒鳴るより効果があるものだ。

次の番台さんからの相談は、逆に歳が上に離れすぎたストーカーへの対応の相談だった。

「年寄の客から手を握らせてくれとしつこく言われて困っているの。草笛さんなんとかして・・・」
「その爺は何歳かや」
「80歳はとうに過ぎているわ」
「へえ~~~80歳過ぎても男っちゅうものは色気があるもんなんだな。
 その爺さんが君の手を握って幸せになれるなら、握らせてやれや。減るもんではないし」

「それがね・・・一度手を握らせてあげたら、お礼だと言って1万円札をくれたのよ。
 それで、これからも手を握らせていいものかと迷っているところなの」
「一度握手して、番台のパート3日分の報酬が稼げるなら、経済効率がいいな。いい話じゃないか!
 80歳以上のお爺さんの余命は短い。あの世に1万円札は持っていけないから
 可愛い君の手を握れたら1万円札も惜しくないんだわさ。黙ってゼニをもらっておくことが親切というものだ」

「でも、手を握らせるだけで1万円づつもらうのは気が引けるわ」
「その1万円札が気持ち悪いなら受け取ったゼニは俺が預かってやるよ、
 どんどん、遠慮なくその爺さんから1万円札をもらえや!」

「わかったわ・・・草笛さんがそれでいいというなら・・・・・」

この奇特なお爺さんはその後、数か月してポックリ亡くなった。自分の死期が近いことを本能的に感じていて
今生の思い出に、あこがれの魅惑の番台さんの手を1万円出してでも握りたかったのだろう・・・

少年時代に初恋の少女の手が握れなかった悔しさを、80歳代の死の間際に番台さんの手を握ることで
彼は長年の夢を叶えてあの世に旅立って行ったのだ。番台さんは菩薩のように善行を行ったのだ。
断らずに1万円で手を握らせてやれ、とアドバイスをした僕は、ここでもまた人助けをした。
番台さんは1万円札をもらってハッピー、死ぬ前の爺さんは番台さんの手が握れてハッピー、これぞ善の循環だ。

                       来週の休日の 第4章につづく



  • [10]
  • 休日モード 露天風呂番台さん物語 第4章

  • 投稿者:@楽
  • 投稿日:2013年 7月13日(土)12時34分7秒
 
投稿者:草笛  投稿日:2013年 6月 1日(土)20時45分40秒

   番台さんを喫茶店に誘ったことがある。地元の店では知り合いだらけで目立つから、
隣の松江市のショッピングセンターの喫茶店に別々の車で行って待ち合わせることにした。
待ち合わせの店で同じテーブルに座って、好きな物を食べていいよ、と言うと
番台さんは子供みたいにうれしそうにして
「高くつくけどコーヒーの他にチョコレートパフェをいただいていい?」
と遠慮がちに言った。
喫茶店で使うお金なんてスナックに比べればたかが知れている。
まっこと番台さんとの付き合いは金銭的には楽な付き合いだ。

チョコレートパフェが届くまでの時間、番台さんは
「こうして二人きりで話すのは初めてね、ここでなら安心して話せるわ。
 私もいろいろ家庭内で悩んでいることがあるの・・・」
と切り出してきた。

話が佳境に入りかけたとき、番台さんがあわてた顔になった。

「まずいことになったわ。今、主人の友達が店に入ってきたわ。気づかれないように私このまま帰る!」

番台さんの亭主の友人という男は、僕の地元の町の人で僕も顔を知っていた。
僕も地元では知られた人間なので、その男は親しげに一人でいる僕に話しかけてきた。
そこに丁度チョコレートパフェが運ばれてきた。

「いやあ、たまには甘いものが無性に食いたくなるんですよ。ははははは」

と僕は言い訳しながら一人でチョコレートパフェを無心に食べた。

後日、露天風呂に行ったとき、番台さんが他の客のいないときにそっと打ち明けた。

「松江の喫茶店で話そうとしたことはね、うちの亭主が無口で
 毎日が退屈でしかたがないってことを聞いてもらいたかったのよ」
「どこの家でも亭主なんてそんなものだろうさ」

「だって草笛さんといると、いろんな面白いことを聞かせてくれるでしょ」
「まあ、俺は特別におしゃべりだからね。家では妻に、男なら少しは黙っていなさい!
 九州男児はあんたみたいにへらへらとしゃべらないわよと叱られているよ」

「それはそうと、草笛さん、私と社交ダンスを習いに行かない?なにか新しいことをやってみたいの。
 それに、ダンス教室なら二人が一緒にいても変に思われないから」
「いまさら、俺は社交ダンスなんかやりたくないよ。で、なんで社交ダンスなんだい?」
「露天風呂の女のお客様が社交ダンスをやっていてね、私に教室に来て、と誘ってくださるの。
 その女の人は、すごい資産家なのよ。亭主に死なれて、ヒマを持て余して社交ダンスに熱中しているみたい」

その未亡人、面白そうだな・・・と思った。本能的にゼニの匂いが漂ってきたからだ。
僕が未亡人に関心を持ったのを見て、番台さんは畳みかけるように、強く誘ってきた。

「草笛さん、ダンス教室はジルバも教えてくれるのよ。あまり堅苦しく考えなくてもいいでしょ。行きましょうよ」
「わかった。抱きしめてジルバ、と西条秀樹も歌っていたから、ジルバを習うってことで行くことにするよ」

                              明日日曜日の 第5章につづく



  • [9]
  • 露天風呂番台さん物語 第5章

  • 投稿者:@楽
  • 投稿日:2013年 7月13日(土)12時32分44秒
 
投稿者:草笛  投稿日:2013年 6月 2日(日)15時23分28秒

   ダンス教室は出雲市の公共施設でやっていた。
僕は泥だらけの運動靴では床を傷めてまずいと思い、980円の特価品の新品の運動靴を買って教室に入った。
そこに番台さんと社交ダンスに嵌っている未亡人が僕を待っていた。
初めて会う資産家未亡人の姿には驚いた。
未亡人の歳の頃は50歳代後半、すごく美しい衣装を着ていた。キャバクラ嬢のドレスの上を行っていた。
社交ダンスというものは、こんな派手な格好でやるものなのかと勉強になった。

ダンスの男の先生も姿勢が良くて、先生だけあってダンスがうまかった。
なによりも目に着いたのが、先生の履いている靴が黒いピカピカの値段の高そうな皮靴だったことだ。
980円の特価品の白い運動靴はまずかったな・・・と僕は恥ずかしくなってきた。

「番台さん、社交ダンスって、ゼニがかかりそうだね・・・」
「そうね、お金のかかる趣味みたいね・・・」

まず最初にジルバが習いたいと言ったら、男の先生と未亡人とがお手本でジルバを踊って見せてくれた。
これが華麗でうまかった。
僕と番台さんがペアになって、お手本の真似をして踊ってみたが、まったく様にならなかった。
ペアで阿波踊りをやってんじゃねえぞ!と叱られそうなイメージだった。
先生から足のステップの基本を繰り返しやらされたあと、また番台さんとジルバを踊った。

今度はCDプレーヤーで音楽をかけて、音楽に合わせて踊った。
音楽があると盛り上がる。足のステップは適当に手抜きして、二人で楽しく我流のジルバを踊っていた。
ダンスっちゅうものは、パートナーといつも手をつないでいるものだ。握りしめた手は決して離さないのだ。
ジルバは男が女を時折抱き寄せる場面がある。僕は番台さんを抱き寄せて、そっと囁いた。

「冥途へ旅立った、あの85歳の爺さんは、番台さんの手を1分間握って、1万円払っていたよな、
 そうすると俺は、このダンス教室2時間の間に、番台さんの手を握りっぱなしだから、今日は120万円分のボロ儲けだな ははは」
「草笛さんったら、ダンスをしながら、変なこと言わないでよ~~~ うふふふ」

いい雰囲気で踊っていたら、そこに未亡人が派手なドレスを翻して二人の間に割って入ってきた。

「初心者同士がだらだらと踊っていても、ちっとも練習にならないでしょ!」

そう言って、未亡人が僕の手を握り二人を引き離して、番台さんに男の先生と踊るように命じて追い払った。
番台さんの手を2時間握り続けて120万円ボロ儲けのはずが、10分間、10万円程度の儲けにしかならかった。
人生はいつだって邪魔が入り、至福のときはそうそう長く続かないものだ。


                   来週の休日モード 露天風呂番台さん物語 第6章につづく


  • [8]
  • 休日モード 露天風呂番台さん物語 第6章

  • 投稿者:@楽
  • 投稿日:2013年 7月13日(土)12時28分45秒
 
投稿者:草笛  投稿日:2013年 6月 8日(土)18時36分20秒

   ダンス教室に行ったあと、しばらくして、露天風呂に顔を出したら、番台さんが話しかけてきた。

「あのあと、未亡人から家に遊びに来てと言われて、彼女の家に行ったら、すごい豪邸で驚いたわ。一人で住むにはもったいない家よ」
「家の場所はどこらへんだったかや?」
「市内の中心部の一等地だったわ」
「あのへんは土地代も高いから、敷地だけでも相当な財産だな。社交ダンスをやっていられるわけだ」

ここから番台さんが本題に入った。

「未亡人がね、草笛さんのことを気に入ったから、お昼ご飯を一緒にどうですか?って伝言を頼まれたの」
「俺はね、派手な服装した未亡人にダンスでしごかれて、ひどい目にあったんだよ。
 あの女のために、番台さんとは最後まで踊らせてもらえなかったがな。会いたくないね。断っておいてくれ」

「そう言わずに、一度だけでも会ってあげてよ。私の顔を立ててよ。私も一緒に行くのならいいでしょ!」
「しかたがないな、番台さんも一緒に昼飯を食う企画なら乗るよ」

数日後、未亡人と番台さんとの3人で出雲市内最高級ホテルのレストランで昼食を取った。
メニューに松竹梅みたいに1200円、1500円、2000円の昼食セットがあった。
未亡人が率先して「三段重ねのお昼膳がここは美味しいのよ、これにしましょ」と言った。2000円のコースだった。
別に2000円のコースがもったないわけでもないが、少しムッと来た。
おごられる側は、普通、自分から一番高いコースを言い出しはしないだろう・・・傲慢で図太い人だなと思った。

「私の主人は定年退職まで一流企業に勤め、退職と同時に突然死んでしまったんですよ。
 退職金と遺族年金を私に残してくれたことがありがたかったです。
 私は残りの女の人生を楽しく過ごしたいと思って社交ダンスを始めたの・・・」

それがどうした!勝手に楽しくすごせばいいじゃないか、と僕は心の中でつぶやいた。

「でもね、社交ダンスは男性不足なの。ダンスパーティをやると男の人が少なくて女が余るのよ。
 草笛さんにダンスパーティに来てもらえれば、女性陣が大喜びよ。ねえ、今度一緒にパーティに行きましょ!」
「俺は、多分行かないと思いますよ。ダンス用の服装や靴も持っていないしね」

未亡人はそれでもあきらめなかった。

「そうね、最初からダンスパーティでなくてもいいわね。
 草笛さんはお酒とかカラオケお好き? 私、お酒も行けるし、カラオケ大好き人間なの!」
「俺も酒とカラオケ、好きですよ。3人でなら飲みに行ってもいいですよ」

ここで番台さんが口をはさんだ。

「私はお酒は全然飲めないの。遠慮するわ」

未亡人の積極的な態度に番台さんは当惑しているみたいで、しらけた場の雰囲気になっていた。
亭主が早逝して財産を残された未亡人、小説に出てくれば、よだれが出てきそうなシチュエーションだが
現実には、人には好みというものがある。なんぼ独身で財産を持っていても、この未亡人には僕は惹かれなかった。

一方番台さんは亭主持ちでゼニもない人だったが、それでも番台さんといた方がワクワクする。
100円の牛乳瓶一本をテーブルに置いて話していても、まるで5万円のドンペリを飲みながら話しているみたいで、
幸せに酔うような気持ちになれる。

番台さんは自己資本は小さいが、大衆を熱狂させる魅力を持っている。
一方未亡人は豪邸も土地も預金もあって自己資本が大きいけれど、彼女自身に大衆を引き付ける魅力がない。
つまり株で言えばROEが低いのだ。
やっぱりROEの高い番台さんを買うしかないでしょ!

乗り気になっている、このROEの低い未亡人をどうやって振り切るか、それが問題だった。
嘘みたいに思うだろうが、下手に対応すると、男だって女からストーカーされることがあるのだ。
僕は女のストーカーからひどい目に遭わされた過去の傷があるだけに、
低ROE未亡人にあくまでも自主的に、自然体で消えていただくように、慎重に知恵を巡らせた。

                           明日 日曜日の第7章につづく




  • [7]
  • 休日モード 露天風呂番台さん物語 第7章

  • 投稿者:@楽
  • 投稿日:2013年 7月13日(土)12時27分15秒
 
投稿者:草笛  投稿日:2013年 6月 9日(日)15時23分15秒
   スナックは夜の7時頃から開店する。
スナックで酒を飲みカラオケを歌うのなら、夕方にまた市内飲み屋街に出直さねばならなかった。
僕は咄嗟に名案を思いついた。

「番台さんが酒が飲めないから、スナックではなくカラオケボックスへ3人でこれから行こうか?」

未亡人も番台さんも同意した。
カラオケボックスは7~8人入れそうな大きな部屋だった。
3人が一通り、順番に一曲づつ歌った。
番台さんは、鶯が鳴くような高音の可愛らしい声で「天城越え」を歌った。
未亡人が太い声で「恋に落ちて」を歌った。まあまあ歌い込んでいるなと思った。

「さすがにカラオケ好きだけあって、歌がうまいですね!
 ジュースを飲んで、しらふでそれだけ情感が込められるんだから、
 真っ赤なドレスを着て、お酒のグラスを手にして歌ったら、世間様からクラブ歌手と間違えられますよ!」

僕はヨイショを特技としている。褒められて怒る人は、この地上に存在しない。
未亡人は、私なんて下手よ、と言いながらも、まんざらでもなかった。

「草笛さんこそ、尾崎豊の I LOVE YOUの歌、素敵だったわ。私、胸がキュンとなっちゃったわ
 もっと草笛さんの歌を聞いていたいわ。何か、他の歌を歌ってくださる?
 沢田研二の歌 時の過ぎゆくままに、をリクエスト!! 私、若い頃、ジュリーのファンだったのよ」

「沢田研二の歌も僕はたいてい歌えるけど、平成の御世になって時流に合わないなぁ~~
 最近歌ったことないです。それよか、僕はあなたのクラブ歌手風味の歌がもっと聞きたいな。
 ワンマンショーのつもりで、あなたが知っている歌を全部聞かせてくれますか」

「そんな、、、、私だけ目立っては、番台さんに悪いわ、、、、」

未亡人はそう謙遜しながら、もうすでに片手にマイクを握って、選曲し始めていた。
そして、彼女は自信たっぷりにテレサテンの歌 時の流れに身をまかせ、を歌いはじめた。

♪ 時の流れに 身をまかせ、あなたの色に染められ
  一度の人生 それさえ 捨てることも かまわない
  だから お願い そばに 置いてね~~~~~~~~♪

「素晴らしい!いい!感情がこもっている!あなたはやっぱりクラブ歌手なみだわ!!」

未亡人はそれを聞いて、張り切ってさらに声を張り上げて歌っていた。

僕はその間に、カラオケボックスの椅子とテーブルを隅に移動させて
ダンスが踊れる空間を作った。

「番台さん、せっかく未亡人が雰囲気を盛り上げてくれているから
 ダンスを踊ろうか。この歌のムードはチークダンスだよね」

番台さんは、こっくりとうなづいて立ち上がり、僕の手を握ってそっと寄り添ってきた。
未亡人にテレサテンのムード音楽を何曲も歌わせて、僕と番台さんは身体をぴったりくっつけて踊り続けた。

最初、ワンマンショーとおだてられて、頬を紅潮させて
何曲も張り切って歌っていた未亡人の声がだんだん小さくなっていった。

彼女が突然、曲の途中で歌うのをやめたとき、振り向いて未亡人の顔を見たら、
彼女はじっと下を向いて泣き出しそうな顔をしていた、、、、、、、、、

僕はそのあまりにも残酷な光景に胸が痛んでならなかったが、言葉で言うよりは、
態度で示すほうが愛と誠、そして思いやり溢れたやりかただろうと自分を許した。
そのカラオケボックス事件以降、もう決して、未亡人からのお誘いはなかった。

           来週の休日モード 露天風呂番台さん物語 第8章につづく


  • [6]
  • 休日モード 露天風呂番台さん物語 第8章

  • 投稿者:@楽
  • 投稿日:2013年 7月13日(土)12時24分6秒
 
投稿者:草笛  投稿日:2013年 6月15日(土)10時23分3秒
   露天風呂の客のオヤジたちの間で、番台さん人気はますますヒートアップしていた。
本来、地元町民の福祉のために作った露天風呂なのだが、隣接する3つ市からも
露天風呂に入りにくるオジさんがたくさんいた。番台さんの愛嬌の良さに惹かれて
一度来た町外の男の客は、たいていまた番台さん目当てでやってくるのだった。

ある日、見慣れない顔の、おかっぱ頭の、背が低めの中年男が露天風呂に入りに来て
風呂上りに、番台さんの前の客用の椅子に座って煙草を吸っていた。
男は番台さんに冗談を言いながら、しつこく話かけていた。
地元の男ではなかった。

こいつも番台さんに惹かれて、二度目、三度目とこの町の露天風呂に来ているのだろう。
僕はその男の隣に座って話かけた。

「あなた、どこから来たの?」
「鳥取県の米子市から来ました」
「なんで、米子からわざわざここに来るの?米子には有名な皆生温泉があるでしょうがぁ~~!!」
「いやあ~~、ここの露天風呂の湯の方が皆生より上ですよ。私は温泉マニアなので分かるんです!」

馬鹿を言え!と言いたかった。僕はこの施設の運営に少しかかわっていたので
この露天風呂が温泉の源泉を節約するために、
源泉を水で割って、ボイラーで沸かしてお湯にし、同じ湯を繰り返し浄化循環させて使っていることを知っていた。
善の循環ではなく、水割り温泉の循環だったのだ。水割温泉より皆生温泉の湯がいいに決まっているわい!
この男が温泉の質を追及しているのではなく、番台さん目当てに鳥取県くんだりから
島根県の田舎町まで通っていることは明白だった。

「へえ~~あなたは温泉マニアですか?じゃあ、どういう温泉に行ったことがあるの?」
「昨日は岡山県の湯郷温泉、一昨日は山口県の湯田温泉に浸かりました」

「すごいですね、毎日、中国地方各県を移動して温泉に入っているんですか!余裕ですね、お金持ちですね」
「私はね、定年前に退職金割り増し制度で早期退職したんです。個人で年金をかけていて
 月に50万円の年金収入があります。それで毎日温泉巡りしているんですワ ははは」

「奥さんに文句は言われないですか?」
「家内は3年前に癌で死に、子供も成人して都会で就職したので、私は独り者です!!」

この男は「月50万円の年金収入」と「妻に死なれて独身」を、ことさらに大きな声で言った。
番台さんに聞こえるように自分をアピールしていたのだ。
この野郎、鳥取県くんだりから番台さん目当てに島根県の田舎町まで来やがって、
おとなしく自分の地元の皆生温泉に通っていろ!と僕は心の中でつぶやいた。

「いくら露天風呂が好きでも、年中温泉巡りだけで暮らしていたら、飽きるでしょう。他に趣味はないの?」
「私は温泉巡りの他には将棋が趣味です!現役時代に職場では名人と呼ばれていたんですよ ははは」

男は「将棋名人」と言う言葉を番台さんに聞こえるように大声で言って、またしても彼女に自分をアピールした。
なに?将棋が趣味?鳥取県の田舎町の職場の将棋名人?僕の心に、鬼の将棋教室魂の炎が燃え上がった。
男が番台さん目当てに露天風呂に来ていることに対して、自分が番台さんの亭主でもないのに僕はムッと来ていたのだ。
ここで一発、この自称将棋名人に番台さんの前で赤恥をかかせてやれ・・・・・

「旅のお客さん、俺はこの町の将棋連盟の会長をやっちょります!鳥取県と島根県の対局と行きましょう!!」

僕が胸を張って宣言すると、番台さんが気を利かして将棋盤と駒を持ってきて二人の間に置いた。

「草笛さん、頑張ってね・・・・・・うふふ」

おかっぱ頭の鳥取男に聞かれないように、彼女は手のひらを丸めて口に当てて
ちいさな声で僕に耳打ちした。そのしぐさがなんとも言えず愛嬌があった。

                            第9章につづく


  • [5]
  • 休日モード 露天風呂番台さん物語 第9章

  • 投稿者:@楽
  • 投稿日:2013年 7月13日(土)12時23分13秒
 
投稿者:草笛  投稿日:2013年 6月16日(日)19時07分34秒
   おかっぱ頭の男と僕との将棋対局は気合が入っていた。
双方が、お気に入りの番台さんの前で負けるわけには行かなかったのだ。

鳥取県の田舎者と言えども、米子方面は人口もそれなりに多い。この町よりもっと栄えている。
それだけ将棋人口も多いのだ。男が米子の中堅企業の職場名人だと自称していたのは、誇大広告ではなかった。
対局は中盤に差し掛かり、僕の方が押され気味になってきた。

まずい!こんなはずではなかった!月50万円の年金受取の余裕ある男と
1か月15万円の手取り議員報酬で住民の救済活動をやっている男の経済力の差なのか!
このおかっぱ頭男は、ヒマを持て余し温泉巡りしつつ将棋ばっかりやっていたのかもしれない・・・

僕は何とか逆襲の手はないかと握りこぶしを額に当てて真剣に長考した。おかっぱ頭に負けたくない、どうしても勝ちたい。
番台さんの前では、いつも強い男の姿でいたい。おかっぱ頭男に負けるのは死ぬよりつらい・・・
この局面では、先にカッとなって安易に斬り込んだほうが負ける。ここは持久戦に持ち込み相手をじらす方が賢明だ。
ところが、おかっぱ頭は余裕の態度で、時折にっこりと視線を番台さんのほうに投げかけていた。じれていたのは僕の方だった。

その時のことだ。番台さんが100円玉を手にして小走りに牛乳の自動販売機に向かった。
緊迫した対局の静寂の中に、ガチャン・ドシンと牛乳瓶が取り出し口に落ちる音がした。
番台さんは取り出し口からコーヒー牛乳1本を手にして、僕のほうにやってきた。

「草笛さん 頑張って!必ず勝ってね。コーヒー牛乳飲んで頑張って!!」

僕が苦戦をしている様子に番台さんはいたたまれなくなって、コーヒー牛乳を差し入れて励ましてくれたのだ。
ゼニに置き換えれば、たった100円の差し入れだが、その差し入れは宝物をもらったようにうれしかった。
株式投資で言えば、100円の株が100倍の値上がりとなり、1万円で利食ったような快感だわな。
僕はコーヒー牛乳を男の目の前でうまそうにゴックンと飲み、番台さんにありがとうとお礼を言った。

「ちょっと待て~~~!!! 一体どういうことだ!!!!!!!」

そのとき、おかっぱ頭の鳥取県人が、番台さんを真剣に叱りつけた。

「私もこの露天風呂の客だ!!この人も同じ客だ。だのになぜ、あなたは
 この人だけを応援するのか!しかもコーヒー牛乳まで差し入れるのか!!
 なんで私にはコーヒー牛乳をくれないのかぁ~~~~~~~
 客に対するあからさまで不当な差別じゃないか!そんなことが許されると思っているのか??!!」

いつもやさしく愛嬌がある番台さんが、おかっぱ頭の抗議に逆切れして言い返した。

「なんであなたと草笛さんと一緒の扱いをしなきゃいけんの?
 私が草笛さんを応援してどこがいけんの!誰を応援しようと私の勝手でしょ!!」

「ここは公共の施設のはずだ!公共の施設の職員がお客を差別することは問題だ!!
 あなたが謝らないなら、施設の責任者を呼べ!!この差別行為に厳重に抗議する!!」

「おあいにく様でした!私は単なるバートで正式な公務員ではございませんことよ・・・・・」

番台さんが引き下がらす、反省のかけらもないのを見て、おかっぱ頭もそれ以上番台さんに反論しなかった。
いい年をした男が取り乱してカッコ悪かったと自覚したのだろう。男は黙ってうつむいて、将棋の対局を再開した。

だが、可哀想に、もう男の心から、将棋の駒の配置も必勝の信念もすべて消えてしまっていた。
鳥取県くんだりから番台さん目当てに通った挙句に、こんなにコケにされたのだから、それも無理からぬことだ。
さっきまでと打って変わって、男の指し手には迫力がなくなり、様変わりに乱れた手を指し始めた。
コーヒー牛乳1本が盤上の局面をがらりと変えてしまったのだ。そして僕はおかっぱ頭に勝利した。

「おたく、なかなか将棋の筋がいいですよ。感心しました!
 今後精進すれば強くなれると思います。次の機会にまた鍛えて差し上げます」

お前は所詮 鳥取県の田舎名人なのだ、思い知ったか!!と僕は駄目押しで「褒め殺し」をやっておいた。

「残念ながら、わたしはこの温泉にはもう来ないかもしれません・・・
 温泉マニアとして、どうも温泉が水っぽくて私の感性に合わないみたいだし・・・」

おかっぱ頭の男は最後の見栄を張って、お別れの言葉を言っていた。番台さんも僕も決して彼を引き留めはしなかった。
この男も性格的に悪い奴じゃあなかったが、去る者は追わない、それが人の世の定めだ。
肩を落として施設の出口に向かって歩く男の、洒落たつもりおかっぱ頭の後ろ髪に、
淡い恋心を無残に踏みにじられた中年独身男の悲哀が、そこはかとなく漂っていた。

                   来週の休日モード 第10章につづく


  • [4]
  • 休日モード 露天風呂番台さん物語 第10章

  • 投稿者:@楽
  • 投稿日:2013年 7月13日(土)12時22分3秒
 
投稿者:草笛  投稿日:2013年 6月22日(土)10時06分33秒
   当時僕は現役の町議会議員だった。議会があった月はどういう議題があって、自分はどう対応したかを
議会報告として2000枚ほど刷り、新聞折り込みで地盤の町東部に配っていた。親しい人には僕が家に出向いて
買い煽りならぬ、僕への支持煽りの議会報告チラシを手渡しし、口頭で町の政治情勢を説明していた。

ある日、番台さんが露天風呂施設勤務の休みの日に、僕は彼女の自宅を議会報告チラシを持って訪問した。
彼女の家は山間の静かな場所にあって、家の周りすべて緑の木々だ。隣りの家が見えない野中の一軒家だ。田舎の農家の家はそうしたものだ。
僕の家は田舎なれども町の中心部にあって銀行や寿司屋、スナック、ラーメン屋、焼肉屋、
お好み焼き屋、ホテル、コンビニなど生活に必要な店がすべて徒歩数分にある。
それでも人があまり歩いていなくて時々淋しくなる。いわんや番台さんは、どんなに淋しいことだろう。

「まあ!草笛さん、私の家まで来てくれたの!うれしいわ!!」
「今日は議会報告を持ってきたんだよ。
 それはそうと、この前はおかっぱ頭の奴との将棋、応援をありがとう。
 あれは番台さんのコーヒー牛乳のおかげでかろうじて勝てたんだよ」

「あの客、三度ほど温泉に来ただけでもう常連気分だったわね。
 おかっぱ頭の客のことはどうでもいいわ。とにかく上がって上がって!」
「亭主は今日も仕事かい?姑さんは留守かい?ほんとに上がっていいのかい?」

と言いつつ、僕はもう靴を脱いで座敷に上がりかけていた。
地元住民のための議会報告活動と言う大義名分があるから遠慮なしだ。

番台さんは、胸から腰を包むタイプの赤いエプロンを取り出し、頭からかぶって台所に向かった。

「草笛さんに美味しい本物のコーヒーを煎れるからね。ちょっと待っててね~~~♪」

台所から番台さんの張り切った声が聞こえた。
畳の部屋で僕は胡坐をかいて新聞を読みながらコーヒーが来るのを待った。

「お待ちどうさま!クッキーも一緒にどうぞ」

二人してコーヒーを飲みながらクッキーを食べた。

「番台さんの赤いエプロン姿、可愛いいね」
「エプロン姿を褒めてどうするの?うふふ」

「亭主が仕事で留守なのは分かるけど、姑さんがいないのはなぜ?」
「義父は身体具合が悪くて入院しているの。義母は通院で今、開業医のとこにいるわ・・・」

子供が成人し巣立って行って、亭主は無口、亭主の両親は病身。県外から嫁に来て、田舎の淋しい一軒家で
朽ちるように生きて行くことに彼女は疑問を感じている。その気持ちが僕には痛いほど分かった。
亭主の反対を押し切ってあまりゼニにならない番台のパートをやりはじめたのも
お金のかかる社交ダンスを習って違う世界を見ようとしたのも、何とかがんじがらめの日常から
解放され自由になりたかったからなのだ。

「番台さんのエプロン姿を見ながら、家でコーヒーを飲むのもいいもんだね、俺たち夫婦みたいだね」
「そうね、夫婦ならいいのにね・・・・・」

「まあ、俺たち夫婦ではないからこそ、責任がなくて楽しいのかもしれないぜよ」
「そうかしら?草笛さんは聞き上手だから私の夫婦関係のことばかり話してきたけど
 それであなたは奥さんとはうまく行っているの?あなたは奥さんと別れたいとは思わないの!」

妻と別れるなんて考えたこともないから、番台さんの突然の質問に戸惑って、彼女の顔を改めて見た。
いつも愛嬌を振りまいて目をへのへのの字にして笑っている番台さんが、
そのとき神妙な顔つきになって、キッとした目つきで僕の目をにらみつけていた。

                           来週の休日モード 第11章に続く




  • [3]
  • 休日モード 露天風呂番台さん物語 第11章

  • 投稿者:@楽
  • 投稿日:2013年 7月13日(土)12時18分55秒
 
投稿者:草笛  投稿日:2013年 6月29日(土)12時52分57秒
   番台さんからの質問に、僕は迷いなく、はっきり答えた。

「俺は自分の家庭は絶対に壊さないよ。家内とは発想が似ていて話題が合うんだよ」
「そうなの・・・それはよかったわね・・・・」

「貴女もいろいろ思うことがあるだろうけど、家庭はこのまま守って、そのうえで自分が羽ばたける場所を探せばいいさ」
「・・・・・・・・・・・・」

コーヒーを飲みほした僕は、大衆レストランのドリンクバーのノリで、お代りを飲みたいと思った。
番台さんは僕から視線をそらして、瞬きもせずに庭の木々を見ていた。僕はコーヒーのお代りをくれと言い出せなかった。
冬が去り、春の陽射しを浴びて庭木が一斉に芽吹き始めていたが、庭を吹き過ぎる風はまだ肌に冷たかった。

しばらく沈黙が続いたあとで、番台さんが事務的な表情になって、また話しかけてきた。
それまで話していた夫婦間の話題から、彼女は差しさわりのない世間一般の話題に切り替えたのだった。

「草笛さん それで今日持ってきた議会報告の内容は何が書いてあるの」
「そこだがね!いよいよこの町が隣の出雲市に編入合併されるかどうかの関ヶ原の戦いになったんだわさ」

「私は、この町が存続しようと出雲市になろうと関係ないわ。政治には興味がないの」
「俺が皆に押されて編入合併反対運動の会長になったんだよ。俺のために番台さんも協力頼むよ」

この時から10年ほど前に日本全国で平成の自治体大合併が行われ、その時は対等合併案だったが、この町だけは合併しなかった。
その結果、東が松江市、南が雲南市、北と西が出雲市と回りを市に囲まれた町制の自治体が
一つだけ陸の孤島の様に残った形になっていた。

出雲市に隣接する西部地区住民が出雲市への編入運動をやり西部の人口が多いだけに編入論が大勢になっていた。
10年前の対等合併案のときは合併特例債という飴玉があって数百億円のゼニをこの町の区域に投資する計画だった。
ところが遅れて来た青年みたいな10年後の編入合併ではそういう飴玉は一切なくて、降伏して城を明け渡すみたいな合併案だった。
僕は経済的なメリットのない編入合併はすべきではないと結論づけた。

地盤的に僕は松江市に隣接する東部地区の議員であり、東部の住民の声を聴くと「出雲市の東外れの僻地になりたくない!」という声が多数だった。
この町では役場が僕の地元の東部にあって、西部の住民は不満だった。彼らは出雲市の市役所の方がすぐそばで近かったのだ。
西部の住民は出雲市民がこの町をベッドタウンとして移り住んだ人たちが多く、出雲市への編入を熱望していた。
住民数は西部が増加傾向で6割、東部が4割の比率になっており、編入合併に進むかどうかの住民投票をすれば、合併反対派に勝ち目は薄かった。

狭い田舎のことだ。編入合併になったとき、出雲市に刃向かって合併反対運動した者は賊軍となって
地域での名誉職的な役職などが一生回ってこなくなる恐れがあった。
それで誰もが目立つ反対派会長職を引き受けたがらなかった。それが田舎で生きる者の知恵である。
政治的にあまり旗幟を鮮明にしないこと、勝ち馬に乗ることが人の移動のない田舎住民の不文律なのである。

僕は勝とうが負けようが信念で進むことを哲学にしているので、あえて「悪役」の編入合併反対運動の会長職を引き受けたのであった。
近藤勇や土方歳三のように義に拠って戦って、その結果賊軍になったとしても、それこそ男の本望、民からの勲章だ。

「町内のいろんな場所で今、編入合併反対のミニ集会をやっているんだよ。
 番台さんの地区でも今度、集会をやるから出席してくれよ」
「私、嫌よ。そんな場所に出かけたら目立つから嫌よ」

「そう言わずに、顔を出してくれよ。人が集まって反対派の勢いを示せば、流れが変わるはず。勝機はあるんだ!」
「草笛さんがそこまで言うのなら、わかった、協力するわ」

実は、出雲市は「行政が露天風呂をやるなんて要らんことだ!」言う方針で、編入合併決定後に、町営の露天風呂施設を閉鎖し
従業員は全員解雇するという方針だった。温泉施設が閉鎖になるのだから、もちろんパートの番台さんも首になる運命にあったのだった。
番台さんは政治にうとくて、編入合併が彼女にとって唯一の息抜きの働き場所を失くすことを意味するとは知らなかった。
可哀想に彼女はここでも本人が知らないうちに運命のいたずらで追い詰められていたのだった。

                                 明日 日曜日の 12章に 続く


  • [2]
  • 休日モード 露天風呂番台さん物語 第12章

  • 投稿者:@楽
  • 投稿日:2013年 7月13日(土)12時17分14秒
 
投稿者:草笛  投稿日:2013年 6月30日(日)16時31分23秒
   夜のミニ集会に番台さんは露天風呂の仕事を終えて遅れてやってきた。集会は中高年の男が多かったから、
掃き溜めに鶴、華やかな番台さんが現れると集会場がパッと明るくなった、女性は場の雰囲気を盛り上げるものなのだ。

地元の世話役が前座で挨拶したあと、会長の僕が30人ほどの住民を前に一席ぶった。

「このたびの編入合併は町民になんのメリットもありません。この町の誘致企業、村田、富士通、島津は
 今でこそ70円台の円高で苦しんでいますが、いつまでも円高は続かない!
 円安になれば町の法人税は何十億も入ってきますよ!
 出雲市はその法人税を狙っているんです。我々の宝物をみすみす出雲市にタダで差し出すことはないです!!
 それに出雲市は財政難で行政の合理化をやってきます。町の外郭団体は全部整理されて、多くの人の職が奪われます。
 たとえば皆様が通っているれ露天風呂施設は閉鎖になり、従業員もパートさんも解雇されるんですよ!それでいいのですか!!」

会場に着いたあと、お祭りに参加したみたいに、愛嬌あるへのへの文字の目をしていた番台さんだったが
「出雲市の方針で露天風呂施設閉鎖!!従業員、パートは全員解雇だぞ!!」という僕の「煽り演説」の場面では
ビックリしてしまって目を丸くし口をぽかんと開けた。

僕は壇上から番台さんを見ながら演説していたので、彼女の顔の変化をリアルに目撃した。
彼女が茫然とする顔もまた可愛かった。

集会が終わって、地区の公民館を出ると田舎特有の夜の暗闇の道端で番台さんが幽霊のように立ちすくんでいた、

「草笛さん、さっきの露天風呂施設閉鎖って、ほんとのこと?反対運動を盛り上げるためにみんなを脅かしたの?」
「いや、間違いない情報だよ。過激な煽りであっても、決して嘘を言わないのが俺の哲学だからね」

「なぜ、地元住民のみんなが幸せに楽しく通っている施設が閉鎖になるのよ!!
 従業員が力を合わせてお客を増やして黒字経営なのに・・・・」
「俺を怒るなよな。出雲市を憎めよ。俺も君も、この戦いは自分の首がかかっているんだ。
 番台さんも気合を入れて編入反対運動をやれよ」

「わかった!草笛さん 反対運動の会長として頑張ってね。私、応援するから!将棋で勝ったみたいに必ず勝ってね!!」
「番台さんがそこまで燃えて応援してくれるなら、この戦いは奇跡の逆転勝利だぞい!
 この町の最後の逆襲 バルジの戦いも可能だよ、きっと・・・・・」

ここで選挙運動みたいに共に頑張ろう、と番台さんの手を両手で握った。
ダンスの時と違って、番台さんが思い切りきつく僕の手を握り返してきた。

僕には分かっていた。この戦いに勝つのは至難の業であることを。
でも番台さんに向かってそんなことは心が痛んで言えなかった。
「必ず勝ってね、私のためにも・・・」と僕の手を握り締めた、
その番台さんの悲しいほどの手のぬくもりを僕は一生忘れない。

                   来週の土曜日の 第13章に続く


  • [1]
  • 休日モード 露天風呂番台さん物語 第13章

  • 投稿者:@楽
  • 投稿日:2013年 7月13日(土)12時14分45秒
 
休日モード 露天風呂番台さん物語 第13章 投稿者:草笛  投稿日:2013年 7月 7日(日)17時05分5秒
   2010年4月25日に出雲市との合併協議に入るかどうかを住民に問う住民投票が行われた。
合併への協議入り 賛成が9842票、57% 反対が7453票 43% で出雲市への編入の方向性が決定した。
東西地区の人口比の傾向がほぼ反映されていた。

当時の地元新聞には、編入合併反対派の事務所は沈痛な雰囲気に包まれた、とまず書いて
反対派を代表して草笛会長が
「地域を守って行こうという気持ちで一生懸命頑張ったが、こういう結果になり
 皆様のご期待に沿えなかったことを、お詫び申し上げます」
と述べた、と神妙な顔をした写真入りで報道されている。

人口が3万人近い大きな町が消えるのであるから、コンピュータの統合などの各種手続きに時間がかかり、
1年あまり後の2011年秋に編入される見通しとなった。

出雲市編入賛成の投票結果によって、物語の舞台となった町営の露天風呂施設は閉鎖に向かって動き出した。
事務処理的に合併以前に町の手で露天風呂施設を廃業し、
職員を解雇して綺麗にして合併の日を迎えなければならなかった。
とはいえ即刻施設閉鎖ではなくて一定期間の猶予があった。解雇通知の労働法があったからだ、

露天風呂施設閉鎖が内定したあと、僕がいつものように露天風呂に入りに行くと番台さんの姿が見えなかった。
交代でパートをやっている女性が連日務めていた。
そういう事もこれまでも時折あったから、あまり事態を深く考えなかった。ところが番台さんの姿が一週間以上も見えないので
さすがに、これは何かあったな、と思って、彼女の携帯電話に電話した。

「もしもし。番台さん、どうしたの?最近、姿が見えないけど、元気にしているかい?」
「ごめんなさいね。私、今、娘のアパートにいるの。あなたに言いにくくて・・・何も言わずに町を飛び出して行って、ごめんね」

「娘さんの用事がすんだら、この町にすぐに帰ってくるのか?」
「いいえ、当分、こっちに住むことにしたわ。もう戻れない・・・これまでいろいろお世話になりました・・・・・・」

娘は就職して広島県にいた。つまり番台さんはこの町をあっさりと去って広島県に住むことにしたのだ。
露天風呂施設の閉鎖廃業が決まり、彼女は閉鎖までの執行猶予的な露天風呂のパートの仕事に見切りをつけたのだ。

彼女は番台さんの愛称でスターのように皆に好かれ、自分の居場所を作っていたのだが、出雲市の方針で露天風呂閉鎖と決まり、
その輝く田舎のスターの地位は執行猶予付きの時限自爆装置でしかなくなった。それで何かが吹っ切れたのだろう。
それは、それで仕方がなかった。僕はこの町と番台さんを守ってあげられなかったのだ。敗者への当然の報いだ。

「山陽の広島は大都会だけんな。こんな田舎の山陰に住んでいるより、その方が幸せだわな。身体に気を付けてな」
「ありがとう。あなたも負け組になって、これから地元で大変だと思うけど、頑張ってね」

「それを言うなよ はははは 俺なら大丈夫だよ、俺は不死鳥だぜよ、俺は新しい人生で戦いつづけるよ」
「そうね、私も新天地で新しい人生を生きてみるわ。草笛さん、それじゃあ、 さようなら・・・さようなら・・・・・・」

番台さんと僕との出会いと別れの物語は実質ここまでである。このあと携帯電話が一切つながらなくなった。
まっこと、会うが別れの始めなり、さよならだけが人生だ。

それから数か月が経って、まだ執行猶予で営業していた露天風呂に入っていたら、
雲南市から通っている元番台さんファンの中年のオヤジが話しかけてきた

「番台さんがいた頃は華やかで楽しかったよねえ~~」
「そうですね。人気者の番台さんはいなくなったし、この施設もいずれ閉鎖になるし、さみしいですね」

「ところでなぁ、こないだ鳥取県米子市に用事があって行ったら、なななんと番台さんにバッタリ会ったんだよ!」
「そんな馬鹿な! 彼女は娘のいる広島県に住んでいますよ。本人から僕は直接聞いたんです。なんかの間違いでしょう、それは!」

「わしが見間違えるわけがないわね!!あのおかっぱ頭と一緒に買い物していたんだからぁ~~~~~」
「ええ~~~~!!!あの米子のおかっぱ頭と一緒にいたんですか!!!」

僕はあまりにも驚いてしまい、ズルっとお湯の中に沈み込んでしまった。
最後の最後にこんなドンデン返しがあるなんて・・・・・・人生は奇想天外だ。
それから数か月間はさすが万年強気の僕も悔しくて悔しくて気分がすぐれない日が続いた。

                              露天風呂番台さん物語 完

この物語はフィクションです。